


アジア財団はフリードリヒ・エーベルト財団と共催で、2001年5月15日(火)、 (社)日本外国特派員協会(プレスクラブ)、メディア・ルームにて「高齢化社会と外国人労働者問題」をテーマにフォーラムを開催しました。
これは高齢化フォーラム・シリーズの第1回目に当たる催し物で、引き続き翌16日には同じテーマで主に英語圏の参加者を対象にブッフェ・ディナー形式のイブニング・フォーラムが行われました。政策関係者、ジャーナリスト、学者、市民団体活動家の方々などそれぞれ30名を越える出席者が一同に会し、活発な意見交換が行われました。
スピーカーには、ドイツ・ジーゲン大学社会学教授のレイナー・ガイスラー氏とハーバード大学・日米関係プログラム客員研究員のアピチャイ・シッパー氏をお招きしました。ガイスラー氏は、ドイツ政府や警察が発表する外国人による犯罪の統計は果たして正しいのか、その方法や数字の扱い方に関して具体的なデータを提示しながら議論を展開しました。また、シッパー氏は日本の外国人労働者をめぐる政策的な現状と、彼らに対するユニークとも言える「草の根の支援」がどのような人々によって、またどのような形で行われているかについて発表しました。
レイナー・ガイスラー氏によると、ドイツでは1960年に移民を受け入れ始めて以来、現在総人口の8%にのぼる700万人強が民族的に非ドイツ人(=マイノリティー)という状況にあるそうです。そしてこれまで政治家、ジャーナリスト、社会学者らは政府機関や学会で発表された統計的なデータを元に、「外国人労働者はドイツの犯罪率を増加させる危険な存在である」という否定的なメッセージを社会に送り続けてきました。例えば、ある年に警察当局が発表した犯罪件数のデータによると、外国人の犯罪率はドイツ人に比べて3倍も高かったそうです。
しかし、こうした統計の取り方にはいくつかの欠陥があり、真実が反映されていないとガイスラー氏は主張します。すなわち、@政府発表の統計上に書かれた「外国人」と警察当局で発表された統計上の「外国人」という分類上の違い、A90%に及ぶと見られる警察への未届け、あるいは検察・裁判の経過を経ていない『ダーク・フィールド(隠れた領域)』が存在するため、統計上の犯罪数は現実を反映していないという点、B外国人が罪を犯した場合、同じ罪をドイツ人が犯した場合と比べて警察に報告される確率が3倍も高いというように、『エスニック・セレクション(民族的選別)』が行われていること、さらにはCドイツ人と同等のソーシャル・プロファイル(性別、年齢、階層などの社会的プロファイル)層の外国人労働者を比較した場合、むしろ外国人労働者の犯罪率はドイツ人より低くなることを指摘しています。
一方、アピチャイ・シッパー氏によれば、戦後日本における外国人労働者数は増加の一途をたどり、日本政府は彼らを職業別の27カテゴリーに分類することによって状況改善を図ろうとしてきました。しかし1990年の入管法の改正以来、それ以前の入国管理政策によってすでに合法的に日本に滞在していた25万人にのぼる「技能を持たない労働者」は「不法就労者」と見なされることになりました。これは出身国及び人種で入国の線引きをする意図的な政策であると、シパー氏は言います。しかし、こうした国としての政策にも関わらず、日本は市民レベルでは非常に人道的に外国人労働者を受け入れようとしてきた姿勢が強く、これは主に先住の同国出身者によって新移民を支援する団体が形成されるアメリカや西ヨーロッパ諸国と比較するとユニークである、と強調します。つまり、国の政策に対する市民の反応として、人道的で自主的な外国人支援運動・活動が発展してきたわけです。
政府機関やマスコミは、「外国からの移民は犯罪に手を染めやすい危険な存在であり、社会の平穏を乱す」という認識を入国管理政策の一環として、あるいは、外国人差別または外国人排斥感情に根ざした犯罪が起きた場合に説得力のある根拠として巧妙に利用してきた、と氏は言います。しかし、1970年代以来ドイツ社会では少子化が急速に進み、経済力や社会保障体制を維持するためには、一定数の外国人労働者を受け入れることが必要であるとの共通理解が国民の間で浸透してきていることにも触れました。
政府以外の外国人労働者へのサービスを行う社会的組織は、『政府系(官庁や地方自治体に属する)の団体』、『同国出身者によって構成される団体(総連、民団、華僑総会など)』、そして『日本人によるNGO』の3種類に分類されます。前者2組織は「合法的に滞在する外国人」にサービスの対象が限定される一方、NGOは「不法就労と見なされる外国人」の支援を行う点で性質が異なります。
現在NGO団体の数は200以上にのぼり、その支援内容も宗教から労働組合、女性・医療・法律相談まで多岐に渡ります。しかも活動に従事している人たちは、30-50代の壮年層が中心で、高い教育を受けた専門職である場合が多い、とシッパー氏は指摘します。ある女性支援団体が、強制売春をさせられていた茨城県のタイ人女性3人が世話人を殺害した事件の背景を調査し、売春における女性達の悲惨な待遇を発表した例や、在留資格のない外国人を支援をしている団体が、不法残留と見なされた韓国人21名に対する退去勧告への不服申し立てを行うために学会から署名を集め、東京入国管理局に提出した例などがあります。
とりわけ興味深いのは、地方自体がこうしたNGOの活動や専門的知識の有用性を認識し、自治体で開催される勉強会や講習会の場に、NGOの活動家をスピーカーとして招待するケースも増えてきている点です。特に神奈川県や東京都などは外国人労働者の問題に積極的に取り組んでおり、自治体の活動自体をNGOに委託することによる経済的効果まで認識するようになってきました。この自治体とNGOの協力関係は、「合法的に滞在する外国人(リーガル・フォーリナー)」、自治体の職員、およびNGOの活動家を巻き込み、あらゆる層の在日外国人に対する福祉を考えるきっかけになるであろう、とシッパー氏は強調します。最後に、こうした活動が将来的にはいわゆるCSO(シビル・ソサエティー・オーガニゼーション、市民社会組織)の運動にまで広がり、新しい民主的なガバナンス(自治)につながる可能性について触れ、シッパー氏はスピーチを締めくくりました。
関連資料:
「犯罪を犯す外国人‐社会一般に危険な偏見が見られる」 ジーゲン大学教授 ライナー・ガイスラー(Prof.Dr. Rainer Geissler)